N3437BM-65
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後編スタートです。
よろしくお願いします。
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01:星


星の祭典と言うものが、夏の始めにある。
ササマツバという樹の枝を切り取り、川辺に刺して岩で囲んで支え、その枝に魔法の光泡を灯す。
光泡の中に願いを込め、飾る行事が恒例だ。
やがて川に落ちた光泡は、川によって遠くに流され願いは叶うとされている。
光泡は光を灯す魔法として一般的だが、泡の中に音を溜め込む事もできるので、かつては言葉を伝達時計 人気 ブランド
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するためのものとしても活用されていたので、この行事に活用されているのだ。




「ねえ旦那様、早く行きましょうよ!!」

ベルルが待ちきれないと言う様に僕の腕を引いた。
夕暮れの終わりかけの、薄い紫色をした空。既に星が見え始める時間だ。

ベルルはこの星の祭典を、とても楽しみにしていたのだ。

「待った待ったベルル。夏になってきたとは言え、夜は肌寒い。何か羽織っていかないと」

「……なら、ショールを羽織っていくわ」

僕に言われ、彼女は部屋からショールを持って来て、それを羽織った。
わくわくした表情は変わらず僕を見上げている。


丘を下って、この平原を流れる小川までやって来た。
王都から流れてきた光泡がいくつかゆらゆら漂っている。

「まあ、旦那様みて!!」

「さっそく、流れてきているな。もう少ししたら、もっと凄い量の光泡が流れてきて、この小川を埋め尽くすよ」

「わあああ、とてもロマンチックね!!」

ベルルが小川を覗き込んで、ゆらゆら漂う光泡のその行方を目で追っている。少し危ない気がしたので、僕も側に寄って、彼女の腰に腕を回した。

「ねえ旦那様、私たちのササマツバはこれかしら?」

ベルルは川の端に突き刺さっている彼女の背丈程のササマツバを指差した。

「ああ、今朝刺しておいたんだ」

「これに光泡を飾るの?」

「そうだよ」

僕は杖を取り出して、ベルルの目の前に光泡をいくつか作り出した。
一般人は町の魔法道具屋で星の祭典用の光泡を買うのだが、僕の場合自分で作り出す事ができる。
ベルルはそれを一つ、手の平の上に載せて、淡く輝く泡の光を、瞳に一杯に映していた。

「さあベルル、一つ目だよ。その光泡に願いを込めてごらん。口の前にもっていって、願い事を吹き込むんだ」

「うん!」

彼女は僕の言った通り、口元に光泡をもっていった。

「旦那様のお仕事が、とっても上手くいきます様に!」

ベルルはまず、そうお願いした。
自分の事を願えば良いのに、迷う事無く当たり前のように僕の事をお願いする彼女があまりに健気で、嬉しくもあったし困った事でもあった。

「ベルル、最初のお願いはとても重要なんだから、自分の事を願えば良いのに」

「だって、口をついて出てきたんだもの。でも、もっともっと沢山お願いはあるの。順番に飾っていきましょう!」

彼女は楽し気に光泡を持って、ササマツバの枝のどの位置に灯そうか吟味していた。

「気に入った位置の枝に、光泡をもっていってごらん。光泡が枝にくっつくよ」

僕がそう言うと、彼女はコクンと頷いて、言われる様にした。
自分の視線の位置の、丁度良い枝に願い事を秘めた光泡を灯す。

光の実はじわりと色を変え、枝にくっついた。

「まあ、とっても綺麗ね! 真っ白に輝く林檎みたいだわ」

「町の広場まで行けば、もっと大きなササマツバに沢山の光泡が灯ってとても綺麗なんだけどね。でも、ここで自分たちだけのササマツバに願いを灯すのも、また良いものだろう?

「ええ! 私、とってもドキドキしているの。だって、こんな風に夜にお外に出て、旦那様と二人で何かをする事ってあまり無いもの」

「……そうだね」

そろそろ、空は暗くなり、見える星が増えてきた。
僕らは一つ一つ、光泡に願いを込め、川の端に刺さったササマツバにそれを灯していく。

川はとても浅くちょろちょろとしたせせらぎが心地よいもので、王都の方から流れてくる光泡のおかげで水底まで良く見えた。





『旦那様が、ずっと健康で居られます様に』

『また楽しい旅行ができますように』

『パッチワークが上手になりますように』

ベルルはそんな素朴な願い事を次から次に光泡に込めていた。
自分自身も、仕事の成功と健康を祈り、またこっそりベルルがずっと自分の側に居てくれる事を願った。
そして更にこっそり、世継ぎ的な願い事もしておいた。いや、これに関しては自分自身の問題で、願いも何も無いのだが。

そろそろ沢山の光泡が枝に灯り、この暗い川辺を明るくする。
丘を見上げればグラシスの館の灯が見えるが、それ以外の光源の無い平原で、ササマツバに灯る光泡と、川を流れてくる光泡だけが僕らの視界を照らしてくれるものだった。

「さあベルル、もうそろそろ、最後のお願いだよ」

「もう最後なの?」

「光泡を灯す枝が無くなってきただろう?」

「……そうね。まだ沢山お願い事、考えていたのだけど……」

ベルルは残念そうに頷いて、僕が手渡した光泡を手のひらに載せて、口の前にもっていった。
しかしこちらをちらりと見て、何やら恥ずかしそうにして少し向こう側まで走っていってしまった。

「……?」

彼女はしゃがみ込んで、こそこそと願い事を吹き込んだようだ。

「ベルル、僕に内緒の願い事かい?」

彼女がいそいそと戻ってきたので、僕は少し笑いながら尋ねた。

「……そ、そうよっ」

「どうして?」

「だって、恥ずかしいもの」

彼女は光泡を手のひらの上で転がしつつ、目を伏せてそう言う。
ベルルも僕に内緒事をするようになったか……。

僕がわざとらしく、

「寂しいな……ベルルが僕に内緒とは」

と言うと、ベルルはハッと顔を上げて、僕の側に寄ってきた。

「違うのよ旦那様? 私、旦那様に寂しい思いをさせたいんじゃ無いの」

「……」

「だって、だって私、とっても欲張りなんだもの。こんなに欲張りな願い事を聞かれたくなかったの。こ、こ、これは内緒のお願いなのよ」

「ほお……欲張り、か」

どういう事を願ったのか、いっそう良く分からなくなった。何か欲しいものでもあるのかな。
ベルルは光泡を手のひらの上に載せていたが、焦っていたのか恥ずかしかったのか、それをにぎにぎと揉み始めた。
光泡は薄い魔法の膜で出来ていて、宙に浮く程軽いが、その膜はそこそこ頑丈で、まるで子供のゴムボールのように弾力がある。
しかしベルル、そんなににぎにぎしていたら、割れてしまうよ……。

そう注意しようと思っていた途端、光泡はベルルの手の上でパンと音を立てて割れてしまった。ベルルは驚いたのか、飛び上がってそのまま尻餅をついてしまった。


『旦那様がもっともっともーっと、私の事好きになってくれます様に』


直後、可愛らしい声が響く。
光泡に溜め込んだ言葉である。


『旦那様がもっともっと、私に触ってくれます様に。旦那様がもっともっと私の事、可愛いって言ってくれます様に。旦那様がもっともっと沢山キスしてくれます様に。旦那様が……』


それらの願い事は、確かに欲張りベルルのものだった。
あの短い間にこれらの言葉を吹き込んだ事が、凄い。最後だと言ったから、一つの光泡に連続して願いを言ってしまっていた。

ベルルは尻餅をついたまま両手で顔を覆って「あううぅぅ〜……」と恥ずかしそうにうなり声を上げている。僕も少々恥ずかしく、口もとに手をもっていって咳払いをしたあと、何て事ない様子で彼女に寄って行って「大丈夫かい?」と聞く。

ベルルはなかなか立ち上がれなかった。

「旦那様、違うのよ。旦那様はいつもとっても私に優しくしてくれるのに、私が欲張りだから、もっともっとって思っちゃうの」

「……」

ベルルは立ち上がらず、その柔らかい草の上にコロンと転がって、もだもだとしていた。
彼女なりにとても恥ずかしかったのだろう。今でも顔を手のひらで覆ったままだ。

「ベルル、大丈夫かい?」

僕も彼女の隣に腰を下ろして、その様子を見ていた。
もっともっと、と言った彼女の願いが、可愛らしくてたまらなかったが、それを聞かれて恥ずかしがる彼女はもっと愛らしい。
ベルルの額あたりを優しく撫でると、彼女は顔を覆う手のひらの、頑丈に閉じられた指を緩め、その隙間から目を覗かせた。

「旦那様……呆れたでしょう?」

「そんな事は無い。とても可愛いと思ったよ」

「でも……」

ベルルがまた指を閉じてしまったので、僕は彼女の隣で寝転がった。
サワサワと生暖かい風が心地よく、空には多くの星が瞬いていた。

「あ、ほら、見てごらんよベルル。満天の星だ」

「……」

「星の祭典日和だ……」

あまりに美しい夜空で、僕はそれを寝転がったまま眺めていた所、ベルルがやっと手を顔から離し、いそいそと寄ってきて僕の体に密着した。そして、腕を取ったまま空を見上げている。

「ベルル、なぜ今日が星の祭典の日と言われるか、知っているかい?」

「……離ればなれの星の王女様と人間の王子様が、一年に一度会える日だからよ」

「そうだ。よく知っていたね」

「本で読んだもの」

星の祭典の日は、星の王女と人間の王子が、光泡に言葉を込め文通の様な事をして、やがて逢瀬を交わし愛し合ったという物語から始まる祭典だ。光泡をやりとりが星の王のにばれて、触れ離ればなれにされてしまった許されない恋をした男女のおとぎ話。

一年に一度、地上の川を光で満たし、夜空への架け橋とする。
人間の王子は、それを渡って空に居る星の王女に会いにいくことを許されている。

ついでに人間たちの願いを空へ運んで、星の王に叶えてもらう、とされている。

「でも、一年に一度しか会えないなんて、私には耐えられないわ。毎日会っていても、私はもっともっと旦那様と一緒に居たいと思うのに。このおとぎ話、私あまり好きでは無いの。星の王に引き離された王女様と王子様が、とっても可哀想だわ」

ベルルは僕の腕をぎゅっと握って、心もとなくそのように呟く。
僕は彼女の方を向いて、その頬に触れた。

「これはおとぎ話だよ、ベルル」

「……うん」

「僕らは変わらず、ずっと一緒だよ。僕だってそう光泡に願ったんだから」

「私もよ、旦那様」

ベルルはパッと明るい表情になって、僕の肩に顔を埋める。
もっともっと、と言った彼女を思い出し、僕はまた少し照れくさくなった。

ベルルに求められるのはとても嬉しい事で、幸せな事だ。

「……あ」

視界の端がさっきよりずっと明るくなり、僕は起き上がる。
ベルルも僕と同じ様に起き上がった。

「まあ、凄い凄い!! 旦那様すっごいわ!!」

そして、すぐに彼女が気がついた。
小川を埋め尽くすほど、無数の光泡が漂ってきている事に。
それは王都の方から光の道のように続いていて、実に美しい光景だった。

実の所、この祭を王都で楽しもうか、ここで二人きりで楽しもうか迷っていた。
しかしこの静かな光の道を見るには、平原に出ていないと難しい。僕はこれをベルルに見せたくて、彼女を小川に連れてきたのだ。

「凄いだろう、ベルル。僕も子供の頃、良く父と共にここへ来て、ササマツバに光泡を灯したんだ。しばらくしたら、こんな風に、川が光に溢れる。静かで、とても神秘的だろう?

「ええ、ええ。すっごく素敵よ旦那様。この光の道が、王子様を星の世界に連れて行ってくれるのね」

「……」

「大好きな王女様に、会えるのね!」

「そうだね」

ただのおとぎ話なのに、ベルルはそんな風に嬉しそうにした。
僕は彼女の肩を抱き寄せ、じっと光の流れを見つめる。

そのうちに、僕らがササマツバに灯した光泡も、ぽつんぽつんと川に落ちて、同じ様に川の流れと共に流れていってしまった。

願いが叶うと良いと思いながらも、ベルルの願い事は全部僕が叶えてあげようと、密かに考えていた。



N4527BC-98 (1)
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Sense98

「おおっ!? リリちゃん綺麗に撮れてるね! クロード。後で私にもスクショ送って」
「分かった。それにしても、今日は豊作だった」

 マギさんとクロードは、とても満足そうに顔を合わせ、妙に緩んだ顔をしている。
 その一方で――。

「しくしく、ユンっち。僕もうお婿にいけないよ」
「あー、まぁいつか笑える日が来るから。な、忘れような」

 俺の腰辺りにがっしりと捕まって、文句を言っている。もう、定番のお婿にいけない。と言う台詞を聞けるとは思わなかったために新鮮だな。なんて思ってしまう。
 そして、現在のリーリーの服装は、セーラー服。古典的なデザインで特に冴えるわけではないが、見知った存在だからこそ服の奇抜さよりも着用者の外見が目立つ。
 髪の毛の徹底的に弄られ、ヘアピンでうなじが出るように後ろ髪を上げられている。

「ユンっちがいけないんだ。僕を見捨てるから。責任とって」
「いや、あのまま楽天 バック
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俺が庇えば、俺まで巻き込まれていたって」

 最初は、見ている分には楽しかったのだが――
 三着目の藍色の和装狐耳では、生気が抜け始め
 四着目の猫又お化け衣装では、クツシタとのコラボで目のハイライトが消え、
 五着目の巫女装束では、もはや涙目を浮かべ、口から乾いた笑みが漏れ出ていた。
 自分の記憶と合わさり、痛ましさしか感じないが、止めることの出来ない俺を罪悪感が攻め立てる。

「さぁ、リリちゃん、次の八着目行こうか」
「助けてよ! ユンっち!」

 涙目で上目遣いのリーリー。子どもにこんな顔で泣き付かれたら、誰だって断れないだろう。
 普段、クロードのストッパー役のマギさんすら、良い具合に壊れており、もはや俺が止めなければ、致命的な何かをリーリーは失いそうだ。

「そろそろ、勘弁してやれ。いくら似合っていると言っても本人がここまで嫌がることを強要するのはどうかと思うぞ」

 まぁ、リーリーを人柱にした俺が言うのもアレだが、そろそろ暴走を止めて欲しい。

「うっ……そうだね。リーリー、ごめんね」
「はぁ、やっとマギさんが止まってくれた」
「一人じゃ寂しいなら私も仮装すべきだったね。次は、もう一回ハロウィン仕様の服で行こうよ! 私も着るから」
「あっれ~? ちょっとマギさん。少し話の方向性違いませんか?」

 そんな、赤信号みんなで渡れば怖くない。じゃないんだから……と、言うよりクロードはさり気無くテーブルの上に男性物の服まで積み上げていくし。

「……後一回だけなら」

 そこでリーリーも折れた。しかも、譲歩限界を提示してダメージを減らす方法を取るとは。昔の無知な俺は、ただ喚いて、叫んで、逃れようとし、そして着せ替えられた時とは違う方法。
 諦め、互いの落とし所を探り、自身への傷を最小限にする方法だ。

「ついでに、裏切ったユンっちも参加」
「はぃ!? 何でそこで俺?」
「裏切り者には制裁を! 一人だけ逃げようとしても無駄だよ」

 結局、人柱にしても避けられなかったと言う訳か。しかし、あのまま着せ替え人形をされていたらリーリーの着替えた回数がそのまま俺に降り掛かった事だろう。
 いや、女装を一回だろうが、十回だろろうが、俺にとってはマイナスでしかなく、マイナスに回数の差は殆ど感じない。だからと言って俺は、むざむざ大きくなる傷を広げようとは思わない。

「相手は、俺じゃなくて、クロードが居るだろ!」
「えっ、ユンっち。クロっちの見たいの? 濃いネタ衣装」
「あっ、うん。それはいいや。なんか、別に見たいって気はしないし」

 そう言われてしまうと怖くて否定の言葉しか出ない。クロードの濃い衣装とは何だろう。怖いもの見たさも有るが、今は触れないでおこう。

「と、言うことでユンっちも」
「俺は、了承していないんだが……」
「ついでにユンっちも髪の毛を徹底的に」
「もう決定事項なのか、リーリー。それと軽く言うけど、あのネタポーションは、手間が掛かってるんだぞ」

 正直、ステータスに影響されないアバターアイテムではあるが、だからと言ってホイホイと使うものじゃない。主に、成功すれば経験値的に美味しいが、失敗すれば時間の損失。という現状では、ハイリスク・ハイリターンのアイテムだ。
 そして、増毛薬とセットの縮毛薬もまた個別精製だ。単純に使って遊ぶための準備と考えると割りに会わない。
 でも、使わないし。一度に何個か作れるから、いいか。とも思ってしまう。

「はぁ~。流されっぱなしか。やるなら一思いにやってくれ」

 俺は、テーブルに増毛薬を置き、目を閉じ来る運命をそのまま受け入れる。
 ひんやりとした液体が髪の毛に撫で付けられるのを感じる。優しい手つきは、マギさんだろうか。徐々に重みを増しながらも、引っ張られること無く伸びていく髪の毛を感じながら、ただ待つ。

「お待たせ。目を開けていいよ、ユンくん」

 立ち上がり、身体を見回すと髪の毛が重く揺れる。腰より更に長い、尻の半分も覆い隠すほどの長さに前以上の長さや引っかからないようにと気をつけている。

「お、重い。重心が後ろに」

 そう、重さで重心が後ろに倒れそうになる。しかし、俺を見る三人の目は、妙に生暖かい。

「ユンっち、後ろ後ろ」

 後ろと振り返っても何も居ない。ただし、にゃん。とか、はははっ。という声が聞こえる。
 まさか……と思い髪の毛を手繰り寄せた先には。

「何で絡み付いてるんだ?」
「猫じゃらしみたいに目の前を揺れていたからじゃない?」

 マギさんのリクール、クロードのクツシタ、リーリーのネシアス。そして俺のザクロが髪の毛に抱きつき、絡みつき団子状態。

「そのまま、一枚。面白いスクリーンショットだ」
「止めんか!」
「はいはい。僕らも服装チェンジだよ」

 リーリーの声で皆が服装を変える。
 マギさんは、犬耳衣装なのだが、なぜかアラビアン風。まぁ、マギさんの肌の色と良くマッチしております。
 リーリーの衣装は、鴉天狗の衣装。手には葉っぱの扇、黒い翼に高い下駄。和装をベースにしており、今まで少女らしさを押し出す衣装だったために、髪の長い少年。もしくは少女という曖昧さが生まれた。
 そして、渡された俺の服は――

「これまた良い趣味しておりますね。まぁ、着替えなきゃならんか。はぁ」

 溜息を吐きながら着替えるのは、肩の露出した和服。イメージとしては、風呂上りの浴衣か、着崩した和服といっ感じのものなので、浴衣なら男女とあるし、と細かいところは無視して現実逃避。
 柄は、白地に水色の雪の結晶模様が幾つも描かれている。

「まぁ、言いたいことは分かる。雪女か?」
「そうだ。雪女だ! 誰にも踏み込まれていない雪の純粋な白さとユニコーンの純白のコラボ! さぁ、幼獣コラボハロウィンだ!」
「やっぱり、そうなんだな。だが――」

 足元に擦り寄っている黒狐のザクロを抱き上げる。
 コイツ一匹だけ余る。

「ふふふっ、俺がそんな事を考えていない思ったか? 否! 万事解決済みだ!」
「おおっ!? クロっちが自信満々だよ!」
「無駄にテンション高いね」

 右手を額に当て、左手を突き出し演説するクロード。もう、この時点で俺には、いや、この服には通常以外のギミックが施されていると考えられる。

「さぁ――」

 指を擦り合わせ、小気味の良い音が左手で鳴る。その瞬間に、俺の身体からむくむくと何かが生える。
 黒髪を掻き分けて生える二本の赤毛の混じる黒い尻尾。って――

「ちょ、これ止めろ! 尻尾!?」
「犬耳、天狗と着たら、狐耳と二尾の狐。そう、ユンの仮装は、雪女狐(ゆきおんなきつね)だ!」
「そんなの聞いたことないぞ!」
「無論、俺が作った! 我がインスピレーションのなせる業」

 俺が声を張り上げるが、更に大きな声で威張られる。

「うわぁっ! 触り心地良さそう。ねぇ、ユンくん。耳を触っても良い?」
「僕は尻尾触る。抱き枕に丁度良さそう!」
「ちょっと、まっ! ……ぁっ」

 いきなり触られて、ぞわぞわとした感覚に逃げようと頭を動かし、腰が引ける。しかし、それでも触り続けるマギさんと俺の肩に乗り耳を甘噛みするリクール。尻尾は、腰辺りを擽られる感じでどんどんと逃げるように腰を下ろし、最終的に地面にへたり込んでしまう。

「マジっ……やめっ、っぁくっ!」

 絶え絶えの息で抗議の声を上げようとするが、駄目でただ耐えるしかない状態になる。
 リーリーの撫でている尻尾は右の一本だけで、もう一方はザクロが抱きついて、もふもふと激しく抱きついている。俺に見つかって、何? と言った感じで首を傾げているのを見てながら、嵐のような責め苦に耐えた。

「はぁはぁはぁ……や、一度に四箇所は、駄目だ。くすぐった過ぎる。お前ら、」

 切らした息で必死に言葉を絞り出そうとする。一箇所ごとは、ただ単に触られているといった感じだが、心構えも何も出来ない状態でやられては、辛い。

「はぁっ……狐の耳に堪能しました。ユンくん、ご馳走様」
「尻尾を堪能しました。ご馳走様です」

 上機嫌なのか、二人の尻尾と翼が良く動く。俺は反抗心からそのままリーリーの背中の鴉の艶やかな羽を撫でる。

「ちょ、ユンっち!?」
「やられたらやり返す! マギさん、左!」
「おお! ユンくん乗り気!」
「ちょっ、駄目だって、あっ……」

 徹底的に撫でました。リーリーの次は、マギさんの狼耳と尻尾を満足するまで触りました。リーリーも先ほどまでの着せ替え人形の恨みを晴らすべくマギさんの耳を丁寧に撫で回し、満足したところでマギさんが俺たち二人を同時に相手取り、撫で回されました。
 最終的には、三人揃って、疲れて地べたに座り込み、寄り添うように息を整えている。

「ごめんなさい。ユンくん、リーリー。もうしないから、これ以上は」
「いや、俺も動けない。と、言うより今日一日で大事な物を幾つも無くした気分……」
「あはははっ、疲れた。楽しかったけど……もう懲り懲り」

 そう言って三人は力無く、息を吐き出す。

「……はははははっ、中々良い映像が取れた! 素晴らしい獣人パラダイスだったぁっ――」

 あまりの狂乱振りにクロードがずっと見ているのを忘れていた。まぁ、俺とリーリーはこの中であるために、一瞬何のことを言っているのか理解できなかったが、唯一理解しただろうマギさんの動きは速かった。
 立ち上がりで縮まった身体を一気に開放し、伸び上がると共に、右の拳を天高く突き上げ、クロードの頭を空中へと運ぶ。
 見上げる俺たちの視界には、顎に美しいアッパーを受け、スロー再生されて強制的に閉じられる口。そのままの衝撃で身体が空へと突き進み、綺麗な放物線を描き、頭から落ちる。おいおい、ゲームじゃなきゃ重症だぞ。
 距離にして十メートルほどの空の旅をたった一発のパンチで生み出したマギさんには、尊敬を。
 命を無駄にしているとしか思えない無謀さな言動のクロードには、この一言を送ろう。

 ――無茶しやがって。

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番外編終了!
ドタバタ、ネタで混沌(カオス)っている内容は賛否両論だろう。
だが、私は言いたい。可愛いは正義、最後に落ちには、

N5011BC-101
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第5話 マヌーノの女王(後編)





 5

 奇怪な形をした樹木がもつれ合って空を覆っている。
 樹海の奥まった場所は、地の底に降りてきたかのように薄暗くて不気味だ。
 鳥や獣の声も、聞いたこともないような種類のものばかりで、ひどく陰鬱に響く。
 これほど日当たりが悪ければ下草は育ちにくいはずなのに、足元に絡みつく草の多さは何としたことか。

 もうその場所が近いのだと、誰に言われずとも知ることができた。
 じゃぶじゃぶ、ちゃぷちゃぷと水をかき分ける音に混じって、無数のうめき声のようなものが聞こえる。
 甘い腐臭と|禍々《まがまが》しい気配は、一足ごとに強まってゆく。

 突然。
 視界を覆い尽くして乱立していた木々が途絶え、ぽっかりと開けた空間が目の前に現れた。
 |蒼《あお》く|惛《くら》い湖である。
 ここまでモンクレール ダウン
モンクレール
モンクレー ダウン
に遭遇した池がみなどろどろの沼であったのに対して、この湖は異様なほど美しい。
 ただし澄み切った水ではなく、鮮やかな染料を溶かし込んだような色の水である。
 そして対岸には巨木というのもおろかしいほどの巨木が、幹の部分をぽっかり開けて立っている。

 いや。
 いや、そうではない。
 見ているうちに気が付いた。
 その巨大な木は。
 神話の巨鳥の宿り木のようなヤンバガルパこそは。
 この湖であり、この森そのものなのだ。
 小さな村ほどの太さのあるヤンバガルパの根元にできた|洞《うろ》。
 その洞にたまった水が、すなわちこの湖なのだ。
 そして巨木が四方に伸ばした根の表面が腐ったものこそが、今バルドたちが歩いてきた泥のような腐葉土のような不思議な感触の大地なのであり、そこに生えた苔であり草であり木であったのだ。
 まさか樹海の全体がこの老いたるヤンバガルパで出来ているとは思わないが、ここ数日歩いたのはこの巨木の身体の上であったに違いない。

 深い深い青くて赤くて緑色の、澄んでいるのに淀んだ水には、何百何千というマヌーノが上半身を突き出している。
 彼女たちは同じ方向を向いている。
 ただ一つの方向を向いている。
 彼女らの父にして母胎なるヤンバガルパの|洞《うろ》の中央を向いている。
 そこには一人の巨大なマヌーノがいる。
 〈女王〉であろう。
 彼女らすべての頭から伸びる髪は、ツタが巨木に向かって伸びるように、〈女王〉に向かって伸びている。

《早く》
《早く》
《女王のもとに》

 と、耳の中に声がする。

《人間よ》
《急げ》
《女王を》
《とどめられる時間は》
《あとわずか》

 と、声はバルドをせきたてる。
 しかしどうやって女王の元に行けばよいのか。
 この湖に足を踏み込んだならば、バルドの体はそのまま沈んでしまうだろう。
 だが、ええい、ままよ、とばかりにバルドは一歩を踏み込んだ。
 すると蒼く濁った湖の表面に何かが浮いてきた。
 鱗に覆われた、ねとねとした何か。
 おそろしく長い何かがうねうねと絡み合いながら、水面に浮いてきた。

 マヌーノだ。
 かのおぞましい蛇妖たちが体を寄せ合って浮き橋を作っているのだ。
 バルドは足をその異形の橋の上に置いた。
 体は水に沈むこともなく支えられている。

 見る間に。
 蛇妖たちの胴がうぞろうぞろとよじれながら、水上の道を形作っていった。
 この見るもおぞましい桟橋を、ちゃぱりちゃぱりと水を踏みしめながらバルドは進んだ。
 足を下ろすたびに、その感触の不快さにぞわりとした悪寒が背筋を走る。
 カーズはと振り返れば、二頭の馬とともに傍観者になり果て、湖の中に踏み込もうとせず静かに立っている。
 中ほどまで進むころには、緊張感からか足首から下がしびれてきたように感じた。
 それでもバルドは前進した。
 ここまで来たのは途中でおじけづいて引き返すためではない。
 そう自分に言い聞かせながら前に向かって足を運び続けた。

 近づくにつれ、女王の姿がはっきりしてきた。
 それは巨大な銀髪の美女である。
 これはもう、女に似た姿などというものではない。
 今まで見たどんな美女にもまさる、美しくみだらな理想の佳人である。
 ただしその肌の色は|死人《しびと》のように白く、蝋のように冷たい質感である。
 つぶらな瞳は|蛙《かえる》の卵のように透き通っている。
 長く豊かな銀髪は体の後ろにざわざわと流れ。
 薄紫の乳首を持つたわわな双丘は、画家たちにため息をつかせるほどの造形の妙をみせ。
 体の両横に広げられた水の翼は不思議と体軀に似合って美しさを引き立てている。
 その眉と口と形のよいあごは、怒りに震えている。

《おおお》
《おおお》
《いまいましい》
《いまいましい》
《なにゆえに》
《なにゆえに》
《わらわにこのような》
《このようないましめを》

 いましめ、とはその体中に突き刺さるマヌーノたちの髪の毛だろうか。
 いや、それは髪の毛ではない。
 おそらく獲物に差し込まれて麻痺の毒を送るとげのようなものなのだ。
 その黒く長いとげは、女王の近くでは透明な色に変わっている。
 湖のあらゆる所から伸びてきた無数の髪の毛は、すべて女王の体に深々と差し込まれているのだ。
 顔といわず、首といわず、乳房といわず、そしてへそから下の鱗に包まれた下半身といわず。
 巨大な身体のありとあらゆる場所に、それは打ち込まれている。

 しかしよく見れば、女王を束縛しているマヌーノたちは苦しげだ。
 身をよじり必死に耐えているが、この状態を長く続けられないことは明らかだ。

 バルドは古代剣を抜いた。
 この前この剣の力を解放したときは、二か月にわたり意識を失うことになった。
 その危険は今もある。
 だがやってみるしかない。
 バルドはよどんだ空気を大きく吸い込んだ。
 吸い込んだ空気が喉と肺腑をちりちりと焼き全身が不快感に包まれる。
 それに構わず古代剣を前に向かって突き出すと、声に出して叫んだ。

  スタボロス!

 するとあのときと同じようにまぶしい光が古代の魔剣を包んで現れ。
 一瞬あとにうねる光弾が発せられ、女王の体に命中して光の瀑布となって流れ落ちた。
 バルドは意識が遠くなるのを感じたが、必死で踏みとどまった。
 幸いにも今度は倒れて気絶することなく、おのれを保つことができた。
 だが脱力感の強さはただごとではない。

 気が付けば、ほんの目と鼻の先、十歩と離れていない場所に女王がいた。
 目は落ち着いた黒色になっている。
 髪の毛も黒色になっている。
 肌の色もやや血の気を取り戻したかのように色づいている。
 マヌーノの血の色が人間と同じというわけでもないのだろうが。
 自分を見下ろす巨大な美女の目を、バルドはまっすぐに見つめ返した。

《まさか人間に救われることになるとはのう》

 その声に似た何かは、バルドの頭の中で強く強く鳴り響いた。
 あまりの力強さに苦痛さえ感じた。

《あの腐れトカゲには、いずれ相応の報いをくれてやらねばならぬ》
《だがその前に、わらわは休まねばならぬ》
《人間よ、名は何という》

 バルドは声に出して名を告げた。

《んむ》
《人間ばるどろえん》
《今は去れ》
《いずれ礼はする》
《とどまればお前を殺してしまうだろう》

 その前に教えてくれ、とバルドは言った。
 マヌーノはこれからも人間を襲うのかと。
 この質問に女王は苦々しい表情を浮かべて答えた。

《こたびのことはわらわの|命《めい》によって行われた》
《だがそれはわらわの意志によるものではない》
《二度とわらわが人間を襲うことはない》
《ただしわらわの土地に踏み込んだ人間は殺す》

 この場合「わらわが」というのは「マヌーノは」という意味なのだろう。
 バルドは続けて聞いた。
 今何者かに操られている人間がいるようなのだが、それはマヌーノのしわざなのかと。

《それはわらわのしたことではない》
《わらわは人間を凍り付かせることはできるが》
《自在に操るような力はない》

 さらにバルドは、魔獣はまだいるのか、あれほど多くの魔獣はどこからきたのだ、と聞いた。

《まじゅう、とは憎しみの精霊の宿る獣のことか》
《それはもういない》
《あれだけの数を用意するにはひどく長い時間がかかる》
《作り始めたのはパタラポザの暦で二晩も前のことであった》
《いずれにしても石はトカゲが持ち去った》
《もうわらわがあれを作ることはない》
《去れ! 人間ばるどろえん》

 女王の顔が変貌した。
 口は醜く裂け、長い牙をみせながら、くわっと開かれた。
 頬にはうろこが浮き出している。
 目は真っ赤に染まり。
 顔や胸に血管が浮き出し。
 全身から怒りの波動を噴き出した。

 バルドは思わず一歩後ずさった。
 と、足元の感触がおかしい。
 蛇女の体で組み上げられた桟橋が水に沈みかけている。
 バルドは振り向いて走った。
 目の前で、どんどん橋がほどけていく。
 蛇が水に散っていくように。
 走りながらバルドは見た。
 マヌーノの下半身は鱗に覆われているが、さらにその先では無数の鞭のようなものに分かれている。
 それはあるときにはねじり合い、あるときには分かれてうねる。
 今バルドの目の前で、無数のマヌーノが下半身を寄り合わせて作った橋が、ほどけて分かれ、水の中に藻のようにただよっていく。

 駆けて駆けて、ようやく岸にたどり着いたときには、もう膝の上まで水につかっていた。

 振り向いてみれば、女王の体に再びマヌーノたちの髪が突き立っている。
 女王は怒りもあらわにそれをふりほどこうとしている。
 ふりほどこうとしながら、徐々に徐々に、女王の体は水に沈んでいく。

 バルドはひどく体の調子がおかしいのに気付いた。
 目がくらくらし、汗が噴き出し、悪寒がする。
 体は重く、手足はしびれたように動かない。
 そこでバルドの意識は途絶えた。






************************************************
7月25日「召喚(前編)」に続く

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我馕钉证椁胜盲俊?

「分かるでしょう?」
「ん?」
源次郎は小さく、本当に小さく首を傾げる。

「子宮よ。」
「し、子宮!」
源次郎は、ようやくその意味に気がつく。

「そう、どう頑張っても、私には手に入れられないものだしね。」
「ああ???。」
源次郎はそうとしか答えられない。

「女の情念ってのは、心の他に、その子宮から滲み出てくることがあるの。
ほら、昔から言うでしょう? “女は子宮でものを考える”って???。
あれよ。あれだったのよ???。」
「えっ! そ、それって、その時プーマ キッズ
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の美由紀さんがってことですか?」
源次郎はそれでも信じられない。
もちろん、当時の美由紀を知っている訳ではないが、それでも中学のときである。
ママが言うような「子宮でものを考える」ようなことがあったとは到底思えなかった。

「そ、そうよ。だからこそ、ミッキーの今日があるのよ。」
ママは、そこに美由紀の原点があるとでも言いたげにする。


(つづく)


第2話 夢は屯(たむろ)する (その1158)

「う~ん???。」
源次郎は、そう唸ることしかできない。
この場面では、どんな言葉を口にしても、その一言で何かが壊れてしまいそうな危うさを感じたからだ。


「それでね、うちの店の営業内容を話したの。結構露骨にね。諦めてもらおうって思って???。」
源次郎の反応を確かめるようにしながら、ママが言葉を繋いでくる。

「な、なるほど???。」
源次郎はほっとした。
まさかとは思ったのだが、先ほどからのママの話を聞いていると、如何にもここで美由紀が働いたとでも言うように聞こえる部分があったからだ。

「それなのに???。」

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、美由紀は、そうする事で自らの感性を高揚させていた。

それをヒントにしたのだ。
源次郎はそうした仕掛けをしたことは無かったが、立場が違っている以上、それを確かめてみたくなったのだ。


(つづく)



第2話 夢は屯(たむろ)する (その1005)

それでも、源次郎は気が気ではなかった。

確かに、美由紀は源次郎のキスにひとつひとつ応えてきてはいる。
声を立てるたびに、その眉間に切なそうな皺を寄せてもいる。
それでもだ。
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で美由紀が感じているのか、自分の性感を高めていけているのか。
それがいまひとつ判然としない。

男と女では違うのかもしれない。
そうは思いはする。

源次郎がこうして美由紀のキスを身体のあちこちに受けたときは、少なからずくすぐったさを感じたものだ。
性感として、つまりは俗に言う「感じる」というものは殆ど無かったように思う。
ただ、こうした仕掛けをする美由紀が高まっていくのを見ることで源次郎自身が高まって行くのははっきりと意識にあった。


男は視覚で反応する生き物である。
だからこそ、街を歩いていても、ちょっと可愛い女の子を見かけると、その顔に視線が張り付く。
階段を上がるとき、タイトスカートのお尻に自然と目が行く。
良い悪いで論議する話ではない。
それが男の自然な本能なのだ。

その究極が美由紀が身を置いているストリップの世界だろう。
ストリップ嬢の身体に触れることも出来ないし、ましてや、現代のように舞台の上で『本番』と呼ばれるような過激な行為は許されていなかった時代である。
高い金を支払って、ただ舞台の上で衣類を脱いでいく女性を眺めるだけな

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第十七話 棺桶その二十

「何をしても無駄ということか」
「その通りだ。貴様の攻撃では私は倒せない」
 何度めかの突撃をかわされ反転しながら彼はまた言ってきた。
「風ではな」
「風は刃となる」
 それでも彼は言う。
「それで斬ることができないというのか」
「その通りだ。そして火もだ」
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 権天使としての力である。
「それもまた私には通じない」
「貴様のその鎧にはだな」
「そういうことだ。つまり貴様はやがてその体力を消耗していき」 
 ここからはストーンカが見る闘いの流れだった。
「やがて私の角を受けることになる。それで終わりだ」
「果たしてそうなるか」
「なる。何時かはな」
 魔物の言葉は絶対のものがあった。
「現に貴様の体力は消耗しはじめているな」
「それもわかっているのか」
「動きでわかる」
 その絶対の言葉がまた出された。
「すぐにな。さて、それではだ」
「来るか」
 また突撃してくるのだった。やはり彼のその突撃をかわすことが次第に難しくなってきていた。彼もまた次第に劣勢になろうとしていた。
 そしてマンティコアに組み敷かれ防戦となってプラダ バッグ メンズいる死神だが。彼はその中で今にも倒れんとしていた。牙は容赦なく執拗に彼を喰い千切らんとしていた。
「さあ、何時まであがく?」
 魔物は既に勝ち誇ってさえいた。
「いずれは力尽き俺の牙に倒れるがな」
「勝ったつもりか。既に」
「では勝てるというのか?」
 赤い光を放つ目にもそれが出ていた。
「今の状態の貴様が俺に」
「できると言えばどうだ?」
「戯言を」
 やはりそれを信じようとしなかった。
「そのようにいくものか。今の貴様ではな」
「一つ見せていないものがある」
 だが死神は落ち着き払った声で彼に告げてきた。
「貴様にはな。まだ見せていないものがあるのだ」
「まだだと!?」
「そうだ。私はただ宙に浮かんだり幻術を使ったりするわけではない」
 その二つだけではないと言うのだった。
「私の最も得意とする術はだ」
「それは一体」
「これだ」
 その言葉と共にであった。不意に彼を完全に組み敷くマンティコアの周りに幾つもの人影が出て来た。何とその人影は。
「何だとっ!?これは」
「これが私の切り札だ」
 組み敷かれてもそれでも自信に満ちた言葉を出せたのだった。
「これこそはな」
「馬鹿な、この術は」
 己が組み敷いている死神から目を離しその幾つもの人影を見て驚きの言葉をあげていた。
「この状況で使えるというのか」
「もっと言えば何時でも使える」
 死神はさらに言った。
「好きな時にな」
「くっ、それが神の力だというのか」
「その通りだ。さあ我が分け身達よ」
 その自分自身達に対しても告げるのだった。
「攻めろ。好きなようにな」
「ちいっ!」
 マンティコアは己の上から鎌が一斉に振り下ろされるのを感じ咄嗟に前に跳んだ。それにより間一髪でかわし体勢を立て直すのだった。
 そのうえで死神に顔を戻す。見れば彼は何人もの自分自身に囲まれ構えを取っていた。それまでの劣勢を完全に覆してしまっていた。
「まさかここでその術を使うとはな」
「切り札は取っておくものだ」
 彼は忌々しげに己を見る魔物に目を向けて言うのだった。

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第二十一話 一喝その十一

「それで宜しいですかな」
「うむ、本題じゃな」
「左様です」
 その通りだとだ。こう主に告げるのであった。
「鎮吉を用意させたその策ですが」
「既に考えておるぞ」
 すぐにその主からの返事が来た。
「もうな」
「そうでござるか」
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「そうじゃ。だからこそ勘十郎を呼んだ」
 信行を見ながら話すのだった。
「既にな」
「といいますとその策は」
「勘十郎、よいか」
 弟を見たままでの言葉であった。
「そなたには再び謀叛を起こしてもらう」
「再びですか」
「そうじゃ。そなたはまずは古渡に戻れ」
 そうしろというのである。
「してじゃ」
「それからですか」
「さすればやがてあ奴が戻って来る」
 信長はここまで読んでいた。
「その時にじゃ。あ奴の言葉に乗れ」
「そうしてですか」
「そしてわしがこれから言うことに合わせよ」
「では」
「よいか。話すぞ」coach アウトレット バッグ
 信長は茶を置きそのうえで話していく。話し終えてからだ。弟の顔を見て問うのであった。
「わかったな」
「はっ、よく」
「くれぐれもじゃ。あ奴の術にはかかるな」
「術にはですか」
「術のかけ方に思うところはないか」
 このことをだ。問うのであった。
「それについてじゃ」
「術のですか」
「何か特徴はあるか」
「そう言われますと」
 信行はこれまでの津々木とのやり取りを思い出しながらだ。今茶室にいる者全てに話す。そのこととは。
「目でしょうか」
「目か」
「はい、目です」
 それだというのである。
「どうも目を見ればそれで、です」
「術にかかってしまったというのか」
「面妖なことにです」
 そうだというのである。
「目を見ればそれによって」
「ふむ、わかった」
 ここまで聞いてだ。信長はまた頷いてみせた。
 そのうえでだ。信行に対しても言うのであった。
「ではじゃ。勘十郎よ」
「目ですか」
「そうじゃ。目じゃ」
 まさにそれだというのである。
「あ奴の目に気をつけよ」
「具体的には見るなというのですね」
「うむ」
 こう答えて頷きもする。
「そういうことじゃ。よいな」
「わかりました。それでは」
「操られるふりをせよ」
 信長が弟に授ける策であった。
「よいな、そのうえで合わせよ」
「では。その様に」
「後はこの策が実際に動くだけよ」
 話すこと、用意することは全て済んだというのである。

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第八話 清洲攻めその七

 その中でだ。蜂須賀は木下と共に左の軍にいた。そこでまた彼に尋ねるのであった。
「のう猿」
「今度は何じゃ?」
「わし等の軍の大将は丹羽様か」
「そうじゃ。その五郎左殿じゃ」
「まだ若いがいきなり軍を任されたのう」
「殿がそう考えておられるな」
「大丈夫なのか?」
 怪訝な顔で木下に問う。
「あれだけの若い大将で」
「安心せよ。五郎左様はじゃ」
「うむ」
「柴田様と同じだけ凄い方じゃぞ」
 こう言うのである。
「あの鬼の柴田様と同じだけじゃ」
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「尾張で最も恐ろしいあの御仁よりもか」
「左様、中々やるぞ」
「そうなのか?どうもな」
「そうは見えんか」
「柴田様は見える」
 彼はだというのだ。
「あの顔を見ればな」
「実際にあの御仁は怖い顔だからのう」
「鬼の様にな。しかし丹羽様は」
「痩せてあまりそうは見えぬな」
「それで柴田様と同じ程度と言われてもな」
「まあ見ておれ」
 しかし木下はまだ蜂須賀に話す。
「丹羽様はかなりやってくれるからのう」
「それ程までか」
「攻めるは柴田様で退きは佐久間様。見るは林様じゃ」
 またこう話される。
「守るはじゃ」
「丹羽様か」
「左様、凄い守りじゃからな」
「守りか」
「さて、そろそろはじまるぞ」ビトン
 陣が動いていた。織田信友の軍は信長の軍勢の鶴翼の陣に囲まれだしていた。そうしてであった。
 その中でだ。木下は己の槍を握り締めてだ。気合を入れた顔で蜂須賀に言ってきた。
「戦がな」
「うむ、それではだ」
「小六、御主も死ぬな」
「ぬかせ猿、御前こそじゃ」
 二人は横に並んで互いに言い合う。
「そして戦の後で酒でも飲もうぞ」
「勝利の美酒をな」
 こう話してそのうえで戦に向かう。まずはであった。
 織田信友の軍勢が動いたのだった。前に来た。
「殿」
「うむ」
 信長は林のその言葉に頷いた。
「わし等のところに来たな」
「はい、殿がここにおられることを察しています」
「ははは、それも当然じゃ」
 信長はここで大きく笑ってみせた。そうしてであった。
 己の軍勢を見る。見れば青の旗以外にだ。白地に黒で永楽通貨が描かれた旗もある。その旗を見てそのうえでの言葉だった。
「あの旗はわしの旗じゃ」
「あえて見せておられるのですね」
「うつけ組みやすしよ」
 そしてこうも言ってみせた。
「そう思ってじゃ。わしに攻め寄せるのじゃ」
「しかしここで」
「うむ、まずはじゃ」
 林の言葉に悠然と答えてだった。
「鉄砲じゃ」
「はっ」
「中軍の全ての鉄砲をあ奴等に放て」
 こう命じた。
「それからじゃ」
「そのうえで、ですね」
「それを合図としてはじめる」
 余裕に満ちた態度は変わらない。

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79:三国連合/賑やかにいきましょう

125/董の旗の下

 武器を破壊したことや武舞台の一部を削ってしまったことを関係者の皆様に謝ると、ようやく訪れる平穏。
 もちろん俺だけじゃなくて霞も華雄も謝った……というかそれが普通なのだが、どうして俺まで謝らなくてはならなかったのかといえば、止められなかった責任でしょうね、はい、解ります。
 武舞台じゃなくても、中庭かどっかでやればよかったんchan luu ネックレスだもんな。
 そんなわけで修繕に走ってくれた園丁†無双の皆様に感謝しつつ、こうして賑やかな許昌の街を歩いている。
 城で動けば作業の邪魔になるだけかなーと思った結果がこれだ。

「あ」
「おっ?」
chan luu チャンルー

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 そんな中、街の人ごみの中でねねと恋を発見。
 肉まんが入った袋を左手で胸に抱え、右手でもくもくと食べ歩く恋と、その傍らで俺を見つけて、まるでデートの現場を友人に見られたかのような反応を示すねね。

「……? ねね、どうかした……?」
「あっ、いやっ、ななななんでもないのです恋殿! さあ向こうへ行きましょう!」

 二人きりを堪能したいのか、ぐいぐいと恋を押すねねであったが、

「……一刀の匂い」
「恋殿ぉおーーーーっ!?」

 人並み外れた野生の勘がそれを許さなかった。
 きょろきょろと視線を彷徨わせ、俺を発見すると目を輝かせてぱたぱたと寄ってくる恋と、それを悲しそうな瞳で「恋殿ぉおお……!」と見送り、手を伸ばすねね。なんだろう、ほら。恋人に捨てられた役の誰かみたいに、スポットライト当てられながら女の子座りで涙ながらに手を伸ばすアレ。アレを実際に見てしまった。
 ……やばい、別に俺なにもしてないのに罪悪感が。

「よー、なにしとったん? 買い食いかー?」

 そんな状況も知らん顔で、むしろ知ってても知らんって顔で恋に話しかける霞さん。
 うん。俺もそれくらい強く生きたい。
 だってね、そうじゃないとあの恨みがましい視線が辛くて辛くて。
 なのでまずはねねの傍まで歩き、謝りつつも手を差し伸べると、むすっとして唇を尖らせながらも手を乗せるねね。引き起こしてやれば、砂をパパッと払って俺を睨む。

「むう……べつにおまえは悪いことをしていないのですから、謝る必要などないのです」
「それでも嫌な気分にはさせただろ?」
「おまえは少し腰が低すぎるのですっ!」
「少しなのに低すぎるって、言葉としてどうなんだ?」
「う、うぅううるさいのですっ! とにかくぺこぺこと謝りすぎです! そんなことでは言葉の価値が下がるだけなのです!」
「むう」

 言葉の価値か。
 たしかに中々謝らない人が謝ったりすると、それだけ重みがあったりするよな。
 そういった意味では、俺の謝罪は軽いのかもしれない。むしろ軽いか。

「それで、ねねはデートか?」

 恋が霞と華雄に捕まっているのをいいことに、ねねにそっと訊いてみる。……と、ぼふんと顔を赤くして、ピキャーとしか聞こえない奇妙な言葉が返ってきた。きちんと言葉で返しているつもりなんだろうが、奇声にしか聞こえない。

「ままままったく! すぐにそういった目で見る者はろくな大人にならないのです!」
「誤魔化してばっかりなやつも、ろくな大人にならないって聞くけど?」
「うぐっ……ごごご誤魔化してなどないのです!」
「じゃあ恋のこと嫌い?」
「なにを言うですかおまえはーーーっ! ねねが恋殿を嫌うなど! ありえぬのです!」

 キリッとした表情。胸に右手を当て、左手はバッと横へ流し。カッと放たれた言葉は、彼女にとっての真なのだろう……揺ぎ無い意思がそこに見てとれた。

「じゃあやっぱり好きなんだ」
「はうっ!?」

 そんな顔が、やっぱり赤く染まった。
 わたわたと慌てて身振りを混ぜて言い訳を整えようとするねねの、その頭を帽子ごとぽふりと撫でて「誤魔化しじゃないんだろ?」と言ってやる。すると観念したように身振りをやめて、長い長い溜め息を吐いた。

「底意地の悪い友達なのです……」
「友達っていうのは重くないくらいが丁度いいんだって。大事すぎると周りが見えなくなるから」
「そういうものなのですか」
「そういうものなのです」

 オウム返しをすると、ねねはやれやれと溜め息を吐いた。
 手は繋がれたままで、霞たちの話が終わるまで、こっちも他愛無い話を続けた。

「あ」
「へ?」

 ……すると、その途中。
 メイド服を着た二人と遭遇した。
 といっても向こうのほうから歩いてきたのだが。
 それを見たねねがテコーンと目を輝かせて、

「ふふーん? 二人は今デートなのですか~?」

 と、ニヤニヤしながら言ってみせた。
 途端に顔を赤く染めて狼狽える詠と、いまいち言葉の意味を拾えずに首を傾げる月。

「なななっなななに言い出すのよあんた!」
「なんで俺!?」

 そして何故か矛先が俺に向くマジック。カッパーフィールドさんもびっくりだ。
 そりゃ、そういうこと言うのっていっつも俺だって自覚はあるけどさ。
 だが大丈夫。こういう時は慌てずにゆっくりと行動すれば、疑われることなどないのだ。

「ふぅ……言っておくけど、べつに俺がねねに言わせたわけじゃないからな?」

 「なぁ?」とねねに振る。

「そう言えと言われたです。言わなければこの手を放さないと」
「キャーーーッ!!?」

 そしてあっさり裏切られた。
 俺を見上げる彼女の笑みが、とてもとても悪魔めいたニヤリとしたものであったことを、僕はきっと忘れません。

「あんた……」
「いや違う断じて違うよ!? 大体デートかどうかなんて当人同士の問題なんだから、仮に誰がなんと言おうが胸張って続けるべきだろうん!」
「だからデートじゃないって言ってるでしょ!?」
「言われてませんごめんなさい!!」
「だから腰が低いと言っているのです!」
「この状況で言われたってしょうがないって解ってくれません!?」

 ああもうからかわなきゃよかった! ねねをからかわなければこんなことにはっ!
 でも普段からいろいろとツッコまれてるんだから、たまにはいいじゃないか!

「と、とにかく。デートじゃないならそんなに慌てないで……」
「ぐっ……あ、慌ててないわよ《ギロリ》」
「図星じゃないなら睨むのもやめてくださいお願いします」

 溜め息ひとつ、とりあえずは話が出来る状況になったことに安堵して、会話を始める。
 さっきまでのは会話というよりツッコミ合いだった気がするし。

「じゃあ、改めて……こほん。ふ、二人は買い物?」
「はい。明日の祭りのために必要なものを。これが最後になります」

 改めてと言いつつもひどく不自然に話を戻したのだが、月が綺麗に拾ってくれた。
 ありがとう。このままいじめられ続けたらどうしようかと思ってた。
 月はやさしいなぁ……。

「まったく。どーしてよその国に来てまで買い出しなんてしなくちゃならないんだか」
「あれ? 詠は買い物嫌いなのか? 俺は結構好きだけど」
「そりゃあ自分の好きな買い物をする分にはいいわよ。でもこれは別でしょ? 言われて買いに行くなんて、それこそ楽しめたものじゃないじゃない」
「んー……そうか? なんであれ、買い物は結構楽しいと思うぞ? 行くまではいろいろと考えるけど、なにか探してるときって妙にうきうきしてる」
「うっ……そ、そんなことなっ───」
「はい、詠ちゃんは買い物していると、すごくきらきらした目で───」
「月ぇえええっ!!?」

 あっさり暴露されて涙をたぱーと流す軍師さまが居た。
 相変わらず奇妙なバランスで保たれた仲だ。

「うぅ……ボクたちのことなんてどうでもいいでしょっ!? そういうあんたはこんなところで何やってるのよっ!」
「え? 俺?」

 なにって……視察もどき?

「華琳に頼まれて視察みたいなことやってる。今日は特に予定も無いし、手伝えることがあるなら手伝うけど───あ、荷物持とうか?」
「……あんた、ボクが腕折れたやつにモノ持たせると思ってるの?」
「都合のいいように受け取ってくれて構わないから手伝わせてくれっ《キラキラ……!》
「───……ねぇ月。この男がサボリ癖があったなんて、絶対うそよね……?」
「え? え、えと、えっと……」
「きっと天で記憶喪失になって別の知識を植え込まれたのです」
「いや、そんな奇跡体験してないからな?」

 なにか手伝えるのならと張り切ってみればこの反応である。
 仕方ないじゃないか、生きるたびに返したい恩が増えていくんだ、落ち着いてなんていられない。返し終わったらどうするんだ~とか言われても、返し終える自分が想像出来ないから苦笑もしてしまうし。
 ……そういえば、返し終わったって思ったら天に戻されたりするんだろうか。
 この世界にもう一度降りることが出来た理由が、実は俺が“恩を返したい”って願ったからでしたーとかそんなオチだったら───……ないな。
 俺の願いで来れる場所なら、そもそも一年も天に居座ることなんて出来なかったって。
 ずっとここに帰りたいって思ってたんだから。

「で、手伝いは? 荷物持ちでも荷物持ちでもなんでも任せてくれ!」《どーーん!》
「荷物持ちしか出来ないんじゃないの! とにかく、ボクはあんたなんかに手伝ってもらわなくても、月さえいればいいんだから!
「大体視察の続きはどうしたのです? こんなところで油を売っている暇があるのなら、さっさと仕事に戻るです」
「よしはっきり言おう。華琳に視察に誘われたはいいけど、華琳が雪蓮と中庭でもめ始めたんだ。で、俺は引き続きってことになったけど、正直なにを見てどう“良し”と判断すればいいのかが解らない」
「……使えない男なのです」
「しょっ……しょーがないだろっ!? 確かに俺も軽い手伝いならしてきたし、回された書簡も多少は読んだけど! 一日のほぼは都でのことの勉強だったんだから! だから手伝いたいんだって! お、俺もこの祭りを組み立てる一人になりたいんだってば!」
「ようするに仲間はずれが嫌なわけね」
「《ぐさり》……仰る通りで……」

 書類整理だけじゃ、なんか手伝ったって気がしないんだよぅ……。
 なのに祭りの中に我こそって顔で立っている自分を想像したら、ひどく空しくなった。
 だから手伝いたいじゃないか! 華琳に視察に誘われたときは、そりゃデートっぽくてステキとかも考えたさ! でも違う、なんか違うんだ! いやべつに好きって言ってもらえなかったからってスネてるんじゃなくてね!?

「ん……そうだ。詠とねねに訊いてみたいんだけど」
「ちょっと、月を仲間はずれにしようだなんて思ってないでしょうね」
「いや、二人に是非訊いてみたいことなんだけど……えと。俺的に空気読んだつもりなんだけど、じゃあ月も。いいか?」
「へぅっ? は、はい、私で答えられることなら」
「……おかしな質問したら千切るからね」
「どこを!?」

 思わず腰周りに寒気が走るが、負けるな一刀。まずは質問だ。

「あ、仕事の邪魔しちゃ悪いから、歩きながら話そうか。霞~、華雄~、恋~、ちょっと歩くぞ~」

 離れた場所で談笑している三人にもきちんと声をかけて、祭りの賑やかさで溢れている街の中を歩く。……仕事とはいえ、こんな中で買い物は大変だろうなぁ。

「で? なんなのよいったい」
「うん。質問の内容なんだけど───気になっている人に“好き”って言ってもらいたいのは、自然なことだよな?」
『ぶぅっふぅっ!?』
「へぅうっ!?」

 詠とねねが一気に吹き出し、月がポッと染めた頬に両手を当てて照れる。
 なんて予想通りな状況。
 そして掴みかかる勢いで俺へと迫る二人の軍師さま。

「ああぁあああんた急になにヘンなこと言ってるの!?」
「そそそそっそそそうなのです! 頭おかしいのです!」
「大体月の前でそんなっ……ってぁあああ月っ、こんなに真っ赤になっちゃって……!」
「だから空気読んだつもりって言っただろ。人の所為にしない」
「うぐっ……うぅうう……」

 三者ともに顔を赤くしてそっぽを向いた。
 詠が月を気にしているのは知ってるし、ねねは今さらだろう。
 百合がどうとか言うつもりはないが、友情からなる愛情ってことで、むしろ微笑ましいものでございましょう。

「で、どうかな」
「そ、そりゃっ……いぃいい言ってもらえたらっ……嬉しいん、じゃないのっ? ボボボクはよく知らないけどっ」
「むむむ……なかなか直球な質問だと感心するのです……やるですね、北郷一刀……」
「こんな場面で感心されても嬉しくないんだけど……一応ありがとう」
「す、好きな人ですか……確かに、言われたら嬉しいんでしょうね……」

 そして三人ともにホゥと溜め息を吐いて……やっぱりそっぽを向く。
 ……うん、好きな人に好きって言ってもらいたいのは正常だよな。
 よし確認終わり。

「訊きたいことも訊いたし、買い物しようか。さあ詠ちゃん、俺はなにをすればいい!」
「急に話題を変えないでくれたら嬉しかったわ」
「えぇ!? い、嫌がってたじゃないか!」
「うっさいこのばかち───ん……こ、こほんっ、えーと……ば、ばか……ばかー……」
「あの……詠ちゃん? 悪口が思いつかないなら、無理に言うことないと思うよ……? むしろ言っちゃだめだよ、そんなこと」
「うぅうう……はっ!? そ、そうだ! 詠ちゃん言うな!」
「随分今さらなのです」

 騒ぎながらも買い物をする。
 幸いにして祭りの中。どれだけ騒ごうともそれが物騒でもない限り、みんながみんなただの祭りの騒ぎだと思っているようだ。

「それにしても……」
「ん?」

 食材を手にした詠が、ちらりと振り返る。
 そこには霞と華雄、そして二人の会話にこくこくと相槌を打ちながらも、なんでかじいいいっと俺を見ている恋。
 それから視線は戻り、ねね、月の順に見る詠は、何かを懐かしむように穏やかに笑む。

「なんか懐かしいわ。この人物構成で行動するのって」
「あ……そっか、そういえば」

 董の旗の下に居た人達なんだ、ここに居るメンバーは。
 もちろん俺はその中には含まれてはいないが……と考えていると、ちらりと俺を見る詠。
 むう、どうせ部外者ですとも。
 でも友達だと言った言葉に偽りはないから、その視線……あえて受けましょう。

「……良かったと思ってるわよ」
「へ? あ、え? なにが?」

 で、あまりに予想から外れた言葉を、俺にだけ聞こえるように言ってくる詠に、必要以上に戸惑う俺が居た。え? よかったって、なにが?

「乱世だもん、負ければ死ぬだけだろうなって覚悟してたのに……こうして生き残って、なんだかんだでみんなとこうして買い物なんてことが出来る仲になった」
「あ……ああ、そういうことか。でも前の時でも───って、そんなふうに出来る役職でもなかったか」
「当然でしょ? 何処で誰が狙っているかも解らないのに、そんな危険なこと……」

 思えば、反董卓連合は彼女たちにとって、迷惑以外のなにものでもない出来事だ。
 住む場所を追われ、仲間とも離れ離れになって。
 それでも彼女は言ったのだ。“良かったと思ってる”と。

「ん……べつにこれが前向きなだけの考えだーなんて思ってないわよ? いろいろ面倒はあるし、疲れることだって毎日のようにあるし。重要なのは、みんなが無事で、争わないで済む場所に至れたってことよ。立場を気にして意識を尖らせる必要もないし、こうして月と一緒に買い物も出来る。一度壊された世界が、誰かの犠牲の上で組み立てられて……暖かくなった状態でここにある。これで笑えなきゃ、月を守ろうとして戦ってくれた人たちに申し訳ないじゃない」
「……そっか《どしんっ》ふおっ!?」

 自然と暖かい気持ちになったところで、詠が買ったばかりの様々を詰めた紙袋を俺に渡す。慌てて片手で受け取るのだが、結構重いし肩から吊るすように巻かれている左腕があるために、胸に抱えるようにして持つことも難しい。
 上手くバランスをとって《ゴスッ》あいいぃいーーーーーっ!!? いたっ! ゴスって今っ! ゴゴゴゴスって左腕にっ……!

「そんなのでよく手伝いたいなんて言えたわね……」
「べ、べつに無理なんかしてないんだからねっ!?《ポッ》」
「急に涙目で頬赤くして何言い出してるですか」
「横から冷静にツッコまないで!? 悲しいから!」

 結局はわいわいとやかましくなる。
 それを見た月もくすりと笑い、そんな笑顔にポッと頬を染めた店の主人がおまけをくれたりで、祭りっぽくていいなって思ってしまう。や、実際に街は祭りの最中だけど。
 そんな賑やかさの中、別の店へと向かう最中にもう一度、詠が近くに来て口を開いた。

「……死んでいった人達がそれで納得するかなんて解らないわよ。もう話すことも出来ないんだし。深く考えてみれば、きっと恨まれてるんだろうなとも思うわ」
「………」

 そりゃそうだ。死にたいなんて思ってた人なんてそうそう居なかっただろう。
 それなのに死んだんだ。
 生きているってだけでも恨まれることは、悲しいけどあるだろう。
 さっきまでの笑顔もどこへやら、詠は少しだけ今まで生きてきた道を振り返ったような、疲れた顔で空を見上げて呟いた。

「義務がどうとかじゃなくて……生き残れたなら生きていたい。みんなの分までなんて偉そうなことは言わないから、せめて……生きていられる残りの時間を笑って過ごすことくらいは認めてほしいんだ、ボクは」
「……ん」

 同じく空を見上げるが、人にぶつかりそうになったからやめた。
 そんな俺を見て、隣を歩く詠が苦笑を漏らす。

「あんたさ。魏で戦っていた頃は何もしてなかったんだったわよね?」
「……ああ」
「そっか」

 向けられる視線が“辛かったでしょ”と語っている。
 そんな視線に答えを返すでもなく、苦笑を漏らした。

「………」

 何も出来ないで、人の死ばかりを知るのは辛い。
 だからって何をしてやれるわけでもない。
 なにもしていない自分が生きて、戦った人がどうして死ななきゃいけないのかと考えることも辛い。そのくせ、鍛錬からは言い訳をつけて逃げていた自分を思い出すのも辛い。
 そんな俺の考えを見透かすように詠は寂しそうに笑って、彼女の行動に似合わず背中をぽんぽんと叩いてきた。

「詠?」
「国に返したいって理由がそこから来てるのかどうか。そんなことは知らないわ。でも、やれることが出来たなら頑張ればいいのよ。……それくらい許してもらわないと、ひどい話だけど……死んでいった人達は重荷にしかなれないんだから」
「………」

 しゃきっとしなさいと言われた気がした。
 それだけで、何かをしなくちゃ落ち着かないって気持ちが軽くなった気がする。
 ……単純だな、俺。
 溜め息をひとつ吐くと、詠は月に呼ばれて小走りに駆けていく。
 その先には相変わらずの食材屋。
 届けられる食材とは別に、こうして買うものも結構あるらしい。
 大体が誰かの要望からくるお使いのようなもの、だそうだ。
 ……で、その空いた隣にいつの間にか恋が。

「……。ん……一刀、元気ない……」
「元気ないと言われながら肉まんを差し出されたのは初めてだ。くれるのか?」
「……? お腹、空いてない……?」
「いや、空腹の所為で元気がないわけじゃないって。懲りもせずに考えごとをね」
「ウチらの輝かしい未来のために?」
「それもある」
「ではいかに戦を始めるかか!」
「違うよ!?」
「いかに女に手を出すかですか」
「それも違う!!」

 神様、一刀です。周囲のみんなからろくな反応がありません。
 どうしたらいいでしょうか。

(一人一人との関係を大事にして生きなさい。多数に手を出してしまった今、何をどう言い繕おうとあなたの愛は一途ではありません)
(神様!?)

 神様にもっともなことを言われた気がした! でもなんかひどく聞こえるのは何故!?
 ……いや、幻聴に心を乱してないで、今はこの瞬間を楽しもう。
 もらった肉まんを頬張りつつ───…………

「…………《じーーー……》」
「あの……恋?」
「…………《じーーー……じゅるり》」
「…………食べる?」
「!」

 くれた肉まんを凝視して、じゅるりと涎をすする恋さん。
 そんな彼女に肉まんを渡すと輝く瞳で見つめられたあと、もくもくと食べ始めた。
 いや……なんのためにくれたのさ、それ。

「えーなぁ恋ー、ななな、一刀ー? ウチにもちょーだい?」
「貰ったもの返しただけだからな……っと、おお、丁度あそこに饅頭屋があるな。あそこでいいか?」
「……!《こくこく》」

 霞に訊ねてみれば、こくこくと頷く恋。

「……まだ食うんですか、恋さん」

 渡した肉まんはとっくに手の中から消えていた。

「誘ったからには奢るですよ、北郷一刀」
「む? なんだ? 奢ってくれるのか?」
「え゛っ…………はぁ。ちゃっかりしてるよな、みんな……」

 こうなれば月や詠に奢らないわけにもいかない。
 離れたところで食材を見て回っている二人に声をかけて、ちょっと早いけど休憩をとることにした。

……。

 もぐもぐもぐもぐ……

「んんっ……この餡、イケる……!」
「こっちの餡もたまらないのです……!」

 祭りに向けて作ったという新作を口にしてみている。
 なんでも干し肉をほぐして玉葱等と一緒に炒め、上手く味付けをした新食感の肉まんなんだとか。ちなみにそれを食っているのがねねで、俺が食べているのは辛味をメインにしたピリ辛まんだ。
 肉まんのように肉は入っていないものの、柔らかい野菜の食感と、追って訪れるほどよい辛さと旨味がたまらない。素晴らしい餡だ。

「おばちゃーん、これの中身なにー? めっちゃ美味いやーん
「ああ、そりゃあねぇ───」
「ふぅむ……饅頭も奥が深いな……。食べ物など腹に入れば同じだと思っていた」
「……《もぐもぐもぐ》」
「美味しいのは解ったから、もう少し落ち着いて食べなさいよ……ほら月、こっちも食べてみて。結構美味しいわよ」
「ありがとう詠ちゃん。じゃあ私のも」
「あ……う、うん、ありがと、月」
「ラブラブだな」
「うっさい」

 茶化してみたら赤い顔で睨まれた。
 ラブラブの意味は解るのか。……いや、雰囲気でからかわれたって悟っただけか。
 とりあえずもぐもぐと食いまくっている恋の頭をぽむりと撫でると、「食べる時は?」と問いかける。するとどうだろう。結構な速度で食べていた恋の咀嚼速度がのんびりとした一定に変わり、味わって食べるようになった。

「うわ、なにこれ。あんた恋になにしたのよ」
「何もしてないって……なんで何かしたってこと前提で話を始めるんだよ。ただ、食べる時はきちんと噛んでって教えただけだよ」
「へぇえ……食べ物をあげればそれなりに言うこと聞いたのは確かだけど、その食べ物のことで言うことを聞くなんて、珍しいものを見た気分だわ……」
「そうなのか?」

 素直なもんじゃないか。
 言ってみたらこくこく頷いて実行してくれたし。
 そう言ってみると、なんだか不思議な生物を見るような目をした詠に見つめられた。
 え? なにこの視線。

「ま、まあいいや。おーい霞ー! こっちの饅頭の餡、ちょっとピリッとして酒に合いそうだぞー!」
「おー! こっちも大当たりやー! “外の饅頭いらんから中身の餡の作り方教えて”ゆーて、怒られとったとこー!」
「なんてこと言ってんの饅頭屋相手に! ご、ごめんおばちゃん!」
「あっはっは、かまいやしないよ隊長さん。祭りの時くらいは楽しんでいきましょ、ね?
「……せやったらウチ、なんで怒られたん?」
「怒られないって思うほうがどうかしてるだろ!」

 ああもうこういうところほんと雪蓮と似てる!
 でもまあ雪蓮と違って反省はきちんとするから、それは本当にありがたい。
 好きなものに素直すぎるのも問題だよな。酒とか。

「なぁ華雄。霞って昔からああなのか? ああ、昔っていうのは知り合ってからとかそっちの意味で」
「いや。昔は戦と関羽のことばかりだったな。男の傍に居たがるなんてことは無かった」
「あっ、こらっ、ちょおっ!? なにいらんこと喋っとんねん!」
「いらんこと? んー……いらんことじゃないぞ? 俺は霞のこと、もっと知りたいし」
「ふぐっ……うぅう……一刀、その言い方ずるいわ……」

 正直な気持ちを語ってみれば、顔を赤くした霞が胸の前で人差し指同士を突き合わせる。
 どうにも照れているようで、ちらちらとこちらを見てくるんだが……そんな霞を見た華雄がすっぱりと言う。「うむ。こんな表情の霞は見たことがなかったな」と。

「だぁもううっさい華雄! ウチのことはもうええんやっちゅーねん!」
「そうか。ならば北郷、お前のことを聞かせてもらって構わないか?」
「え? 俺?」
「あ、そや。恋と華雄で話し合ぅとってん。一刀、結局華琳には“好き”言ぅてもろてへんやろ?」
「イ、イヤ、その話しはもうイイカラ。察するヨ。僕、察するンダ……我ガ名ハ“ショユウブツ”! 今後トモ、ヨロシク!」

 無意味に両腕を挙げて叫んでみた。
 みんな知ってるかい!? 所有物って凄いんだぜ!? 持ち主のもっとも傍に存在できるものなんだ! それがお気に入りなら尚良しッッ!! そう、飽きられない所有物であれ! 常に変化を続けるような……例えば履くごとに味が出るスニーカーのような男であれ! で、穴が空いたらポーンと捨てられるんですね? ちくしょぉーーーっ!!

「一刀、最近おかしなったなぁ……」
「いや、おかしくないから。当然の反応だからっ。まあそんなことは置いておいて、うん。好きとか嫌いとかはもういいや。華琳が察しろっていうなら察することにするよ」
「へー……それでええん? 言われるままに納得~、て」
「ちょっと考えることがあってさ。好きだからって、求めすぎてたのかな~って。だから少し距離を置いてみようかなと思えるようになった。丁度都で暮らすって案も出てるわけだしさ」

 親離れならぬ華琳離れをしてみましょう。
 で、立派になったら改めて、その……かか華琳に子作りのことを話してみる、とか。
 それで断られたらまた努力しましょう。
 少なくとも“俺には”、随分と時間がありそうだから。

「都暮らしかぁ……都で暮らすのって一刀だけなん?」
「美羽と七乃と華雄は確定してるみたいだ。あとは……誰になるんだろ」
「おろろ、なんや、華雄も行くん?」
「いや……初耳だが」
「いやいやいやっ、ちゃんと話通してあるはずだぞ!? 忘れてるとかないか?」
「───…………」

 遠い目が、どことも知れぬ場所を眺めていた。
 うん……忘れてたんだな、きっと……。

「詠とか月はどうだ? そういう話を聞いたりとか」
「あぁその話? 桃香から聞いてはいたわよ? 知らない仲じゃないし、桃香が気を利かせてくれたんだろうけど」
「はい。丁度華雄さんはその時、他国の将と仕合をしていたと思いますけど……」
『あぁ……』

 全員の声が重なった。
 月と華雄だけが首を傾げ、それ以外が恋を除けば全員頷いていた。
 なるほど、忘れてたんじゃなくて耳に入ってなかったのか、と納得したが故だった。

「華雄は一つのことに夢中になると、周りの声なんて右から左やもんなぁ……」
「それはあんたもでしょーが」
「へ? ウチも? あっはっは、じょーだんキツイわ詠っち~
「……自覚無いって幸せなことよね」
「まったくなのです」
「一刀ぉ……みんながイジメる……」
「いやごめん、まったく同じ意見だった」
「んなっ!? 一刀までっ!? ウ、ウチちゃんと話くらい聞いとるもん! 愛紗に見惚れてようと声かけられれば反応返せるくらい、ちゃんと聞いとるもん!」
「み、見惚れっ……へぅう……!」

 賑やかだ。
 むしろうるさいくらいに。
 だけど祭りの雰囲気には丁度いいらしく、周囲まで騒がしくなる。
 こういうのはノリなんだろうけど、ここまで賑やかだとノリとは関係無しに楽しみたくもなってくる。……そんな雰囲気に乗ってか乗らずか、霞が猫耳(幻覚)をピンと立て、この場に居るみんなに質問を投げた。

「あ。見惚れるで思い出した。みんなに訊こ思とったことがあるねんけど……なな、こん中で一刀のこと好きな奴、どんくらいおるん?」
『───《びしり》』

 …………空気が凍った。
 賑やかだった周囲までもが音を無くしたかのような幻覚が場を覆う。
 幻覚というからには幻の感覚なわけで、もちろん周囲は賑やかなままな筈なのだが……。

「……《ズビシ》」
「恋!?」
「恋殿!?」

 無表情ながらに目は輝かせ、挙手する奉先さん。
 思わず驚く俺の横で、ねねまでもが驚いていた。

「ほー、やっぱ自分に勝った相手には惹かれるモンがあるん?」
「ん……やさしい。いい匂いがする。|動物《みんな》が好き。恋に勝った。あと……撫でられると気持ちいい」
「言わなくていい! そういうこと本人の前で言わなくていいから!」
「せやったら華琳が一刀に“好き”言わんでも平気とちゃうん?」
「………………もっ……もも求める好意と与えられる好意は違うというかなんというかっ」
「贅沢やなぁ……」
「まったくだよな……自覚してる」

 俺、とっても贅沢してます。
 元の世界ではむしろ、女の子に遠慮しながら生きてきたと言っても過言ではないんじゃないだろうか。……いや、剣道で不動さん相手に遠慮無しとかは、やったところで無意味だってことはよーく思い知ってる。剣道を抜けば……やっぱり大して変わらないな。

「んで? 恋の他にはおらんの? 一刀んこと好きなやつ」
「いや……霞さん? 寂しくなるからやめてくれたら嬉しいかな……」
「な~にゆーてんねん、この平和な世の下、好きな男の一人もおらんと退屈で死んでまうやろ。ウチはウチの知り合いがそんな、退屈で死にそうになるのいややもん」
「俺って退屈しのぎの道具かなんかか!?」 
「だってウチ、一刀と一緒やと楽しなるもん」
「う……そ、そうか……?」

 そんな真正面から言われるとさすがに照れる。

「言葉だけでころころと表情を変えるなど、扱いやすそうな男です」
「ほっとけ! 嬉しいんだからしょうがないだろ!」
「ふーん……? まあそうね。友達だとは思ってるけど、好きかどうかで言えば違うわね。いってもせいぜいで“大事な友達”どまりよ。そういう性格じゃない、こいつって」
「人を指差して“こいつ”言うな」

 ねねも詠も、俺の扱いが随分と適当である。
 しかしその中から感じられる俺相手だから言える言葉っていうのは、解ってしまうとこれが案外悪くないと思えてしまう。
 仲がいいから言える言葉って、結構あるもんな。
 感じられるものが無ければ、ただただ落ち込んでいただけであろう自分が想像に容易い。

「へぅう……その……私も好きではありますけど、それは大切なお友達としてでして……
「ね、ねねは友達なだけなのです。別に大切だとかそんなことは考えていないのです」
「へー……やっぱ友達思とるのが多いんやなぁ……あ、華雄はどうなん?」
「鍛錬相手だ」《どーーーん!!》
「……空気読もうな、かゆっち……」
「む? だめなのか?」

 いや、俺もそうだと思ってたから、別に不都合はないんだが。

「なー華雄~? 平和な世はそら平和でえーもんやけど、それだけやと退屈やでー? そこにきて好きな男がおるってゆーのは、これで結構ええもんやねんで?」
「男にこれといった興味はないな。強いのならまだ考えなくもないが」
「よっしゃ一刀、負かしたり」
「片腕でどうしろと!?」
「いや~、華雄は絶対に男で化けるヤツや。一度好きになったら自分の全部をそこに置く感じでこう、な? 一刀の言うことならなんでも聞いて、一刀が言うんやったら知識も磨いて、一刀が願うんやったらより強ぉなろって、躍起になると思うねんけどなぁ……」
「………」

 言われて、華雄を見てみる。
 いまいち話の流れが掴めていないのか、顎に軽く握った手を当てて考え事をしている。

「……華雄が?」

 そんな様子を見てもピンとくるものは一切なく、つい逆に問い返してしまう。
 他のみんなもそうだったようで、視線は一斉に華雄へ。

「……ん? なんだ?」

 本人はといえば、きょとんとした顔で俺達を見渡す。そりゃそうだ。
 そこで霞がけらけら笑いながら説明してみれば、

「自分が誰かを好きになるなど想像が出来んな……そんなものは病の一種だろう?」
「おー 恋の病っちゅーやつやなっ」
「その言葉、この世界でもあるもんなのか」

 予想の範疇ではあった言葉が返ってきた。
 俺だってこの世界で人を好きになるまでは、自分が誰かを……なんて想像もしていなかった。求められて受け入れて、そこに“恋”ってものがあったのかも確認できないうちに愛にまで至ったようなもんだ。
 ただしそれは間違いようもなく愛ではあり、デートなどをじっくりとする“恋”を完全にすっ飛ばしたものではあったわけで。それを言うなら三羽烏との関係が一番自然だったんだろうか。デートとはいかないまでも、昼食を一緒に摂ったり警邏で一緒に歩いたりしたって仲ではダントツだ。
 そんな関係を華雄に代えてイメージしてみるのだが───



-_-/イメージ

 ザムザムザムザム……!

「うむ。やはり警邏はいい。心が引き締まる」
「いや、一応デートのつもりなんだけど」
「出餌屠? なんだそれは」

 街の中をふたり、歩く。
 今日もいい天気。
 デートするにしても城下に下りればいいというのは、この世界ならではないだろうか。
 もちろん遠出するなら馬は必須になる。
 ……なんて考えていたのだが、華雄はこれを警邏だと思っているらしい。
 しっかりとデートだと言ったのに、右から左へだったようだ。

「さあ、これが終わったら兵たちの調練と自らの鍛錬だ」

 華雄は戦に対して真剣である。

「次の列! 突撃を仕掛けろ!」

 むしろ頭の中はパワーでいっぱいである。

「他に遅れを取るな! 呼吸を合わせていけ! 乱れた呼吸にではなく、整った呼吸に自らが合わせろ!」

 しかしながら……武力はあっても統率が少ないと思っていた彼女だが、これで案外部下には慕われていた。策には弱いが真正面からぶつかれば相当に強い隊を指揮している。

「我々に敵は無い! 我々は強者だ! ふははははは!!」

 ……さらにしかしながら、一度熱が入ると止めどころを見失う。
 熱暴走とでも言えばいいのか、突撃大好き人間になってしまい、真正面から以外の攻撃に滅法弱くなり───

「なん……だと……!?」

 あっさり負ける。
 それは指揮勝負での模擬戦を始めて、少ししたあとの出来事であった。




-_-/一刀

 結論。

『ないわ』

 声が揃った。
 今度はその言葉を向けられた霞がきょとんとする番だった。

「ない、て……なにが?」
「いや、華雄が人を好きになるって状況が思い浮かべられないって意味で」
「だって華雄よ? 戦があればそれこそ人生って感じの。命令聞かずに挑発に乗って、門を開けて突撃仕掛けて戻ってこれないまま行方不明になった華雄よ?」
「《ざくざくぐさぐさっ!》ふっ! ぐっ! おううっ!」
「や……詠っち? そのへんにしたって。何気に華雄が悲鳴あげとるから」

 そういえば反董卓連合の時、いろいろとやらかしてたんだったっけ。
 お陰で簡単に関門を越えられたわけだが……本人にしてみれば黒歴史だよなぁ。

「そもそも“好きになる”というのは、そこまで人を変えるものなのですか?」
「ん? ねねは恋のことになると人が変わるけど、それは違うのか?」
「違わないのです《きっぱり》」

 あ。認めた。

「しかしねねの好きはそういった無粋なものではなく、尊敬や友愛からくるものなのです。だからというわけではないのですが、恋愛だのなんだのが人をそこまで変えるとは思えないです」

 目を伏せ、片方の口角を持ち上げてのフスーと吐く溜め息。
 うん、最初っから理解する気ゼロでの物言いだ。
 まあさ、うん。解るんだ、それも。愛だの恋だのは経験してみなきゃ解らない。
 恋をすっ飛ばして愛に至った俺からすれば、むしろ恋のほうが興味深く、ソワソワしていたりもするんだが……相手を抱くだけが愛じゃないもんな。うん、紳士であれ、北郷一刀。今は弱くても、いつかは強い紳士になろう。勝てないと解っていても立ち向かう勇気を持つ紳士になろう。でも、いつか勝てるようになってやると決意を見せる紳士になろう。

「そういうあんたはどうなのよ。その、こいつと寝たって聞いたけど」
「へぅっ!?」
「お~? なんやぁ賈駆っち、そっちのほうに興味津々かぁ~?」
「今さら賈駆っちなんて呼ぶんじゃないっ、人の目があること忘れないでよっ」
「あ、そやった」

 驚いて顔を真っ赤にさせた月には触れない方向で、複雑そうな詠と霞が話を進める。
 そっちの話になると巻き込まれるのは目に見えていたから、軽く離れて恋の傍へ。

「恋、食べてるか?」
「《こくこく》……ん」

 未だに饅頭を咀嚼していた恋の傍で、ひとまずは安堵。
 それにしても幾つ食うつもりなのか。
 いい加減にしてくれないと俺の巾着の残高が底をついてしまう……!
 祭りの雰囲気の中でツケにしておいてとか絶対に言いたくないのですが!?
 
「恋、追加の注文はそこまでにしてもらっていいか? 生憎ともう財布の中身がさ」
「!《バッ》」
「え……いや、別に俺が肉まん食べたいから言ってるわけじゃ……その……いただきます」

 差し出してくれたのに、ヘンに遠慮するのも難しく。
 今度こそ肉まんを頬張ると、もふもふと咀嚼する。
 ……うん美味い。饅頭はふっくらで中の餡の肉汁といったら溢れるようだ。
 なのに嫌味ったらしい油っぽさじゃなく、旨味をたっぷりと含んでいる。
 それが外の饅頭に染み込んでいって、そこを食べればまた違った味わいがある。
 などと思っていると、咀嚼の内は当然のごとく口から離していた肉まんを、恋がハムリと口にする。思わず「ホワッ!?」とおかしな悲鳴をあげると、もむもむと咀嚼しながら首を傾げる恋。
 ……手に持っている肉まんの面積が明らかに減っていた。

「あの……恋? もしかして食べちゃだめだった?」
「《ふるふる》……大事な人とは分かち合うもの。桃香がそう言ってた」
「………」
「…………《じー…………きらきら》」

 俺を真っ直ぐに見つめる目が輝き、何か期待をこめていることに気づく。
 とりあえず……一口齧ると恋の口の傍まで肉まんを持っていく。
 すると、はむりと一口齧り、もぐもぐと咀嚼。

「………」

 試しに二口連続で食べてみると、恋が「!?《ズガーーーン!》」と大層なショックを受けた。そして首をふるふると横に振りながら俺の服を引っ張った。
 やだ……可愛い……! じゃなくて。

「わ、悪い悪い、分かち合い、だよな? ほら」

 すっともう一度差し出す。
 連続二口といっても多少齧った程度だから多少は残っている肉まん。
 それを、今度は恋が二口連続で食べる。

「………」
「………」

 奇妙な空気が生まれた。肉まんは減るばかりなのに。
 なんかもう間接キスがどうとかそういう問題も軽く越えた空気の中に居た。
 お互い見つめ合って一つのものを分け合って、ちょっとしたいたずらでキャッキャウフフ状態……これってあの伝説のバカップル状態というやつではございませんか?

「………」
「………」

 親愛感だよな、フツーに。
 しかしポムポムと頭を撫でてみれば、その手をワッシと掴まれ、頬擦りされる。
 ……親愛感ですよね?
 でもなんかこれって、犬や猫を撫でてる時の反応に似ててくすぐったい。
 たとえば頭撫でてると頭を押し付けてくる猫みたいに。たとえば指を舐めている最中に撫でようとすると、押さえつけてさらに舐めてくる犬のように。
 なんとなく反応が見たくなって、悪戯心全開で恋の唇をつんとつついてみる。
 ……と、かぷりと人差し指が食べられ、閉じられた口の中でぺろぺろと嘗め回されてオォオオッヒャァアーーーーーッ!!?

「ちょわぁああととと!? 恋!? 恋っ! くすぐったいくすぐったい!」
「?」
「《かぷり》いったぁーーーーっ!!? いや痛くしてくれって意味じゃなくてぇえ!!」

 生暖かな場の空気が俺の叫びで飛んでいった。
 それはいいんだが指が痛い。
 痛いと言えばすぐに放してくれるのだが、指が口から解放されることはなかった。

「………」
「?」

 指を銜えられた状態で首を傾げられた。
 やだ……可愛い……! ───だからそうじゃなくて!
 おお落ち着きなさい北郷一刀。誰に対してでもこんな調子だから種馬などと呼ばれるのです。紳士への目標はどうしましたか。もっと凛々しく生きなさい。

「……《ぴしゃんぴしゃんっ! ぼごっ!》~~~人ぉお~~……!《ごくり》」

 心の中のむず痒さが溢れ出しそうになった瞬間、恋の口から指を抜き取ると、自分の両の頬を叩いてから右頬を自分で殴り、掌に人の字を書いて飲み込んだ。
 すると、スゥウと引いてゆく顔の熱。
 いろいろな感情が渦巻いているのも確かだし、きっと友達以上に思っている相手も居る。亞莎に対して抱いた気持ちと同じく、それはきっと友情ってだけで答え切れるものじゃあないのだろう。
 でも、焦ることはもうやめたのだ、のんびりいけばいい。

「ほい、恋」
「《はむっ、もぐもぐ》」

 差し出した残りの肉まんを頬張り、咀嚼する恋を見て微笑みを浮かべる。
 頬を叩く際に持ったままだったから少し形が崩れていたが、恋は気にせず食べていた。
 微笑んでいた。この時の俺は、それもう本当に、暖かい気持ちで微笑んでいたのだが。

「フフフ……聞いたぞ北郷よ。男を好きになった女は、なんでも通常の三倍の力を発揮できるそうではないかっ! 故に勝負だ! 武器を取れ!」
「なんで!?」

 その笑みが裸足で逃げるくらいの出来事が、突如として起こった。
 何故だか高揚した華雄が俺の傍まで来て、一気にそんなことを言い放ったのだ。

「すっ……好きになるのと勝負との関連性の説明を求める!」
「む? 前に言ったが? 私は自分より弱い者には興味がない。お前が勝てばお前の子供でもなんでも産んでやる」
「前に言ったが、って前は子供の話なんてしませんでしたよね!?」
「いや。以前より気になっていたことはあるにはあるのだ。手負いの獣は何をするか解らないというが、真に恐ろしい獣とは子を守らんとする獣の親だ。常々、あの力は何処から出てくるのかと不思議だったが……」

 そこまで言うと、ちらりと霞の顔を見たのちに頷く。

「……男を好きになった女は強くなる。その意味の末を知れば、それも頷けるというものだろう?《ニヤリ》」
「いやニヤリじゃなくて!」

 妙な納得の仕方してる!
 霞の説明の賜物なんだろうけど、嫌な理解の仕方の所為で逆にこっちの説得が難しそう!

「ええいもうやってやらぁーーーっ!! 片腕だけどこの北郷一刀、逃げも隠れもせん!」
「へぅう!? か、一刀さんっ、無理をしては───」
「……月。魏に生きたこの北郷が唱えます。この手の人相手には、どれだけ口で言っても無駄です」
「え、え? えぇっ?」

 そう。春蘭に説得が通じないように。一つのことに夢中になりすぎるあまり、氣弾で看板破壊をしてしまった凪のように。一度コレと決めた人には何を言っても無駄なのだ。
 なので武舞台で勝負じゃー! ってことになり、行動範囲は再び城内へと戻り───

「壊された舞台の修繕がまだですのでお引取りください」

 ───あっという間に追い返された。

「……あれ?」

 み、妙ぞ……こは───いやいや疑問を抱くよりもどうしようかだよ。
 とりあえず工夫のおやっさんが怒ってたのは間違い無いな。うん。
 そんなわけで武舞台の傍でどうしたものかと悩んでいる。
 一応は俺だけで“使ってもいいか”を訊ねに来たわけだが、あっさり却下だ。
 ならば他のところで───と考えて中庭が浮かんだわけだが、華琳に視察の続きをしていろと言われているというのに、“仕合のために戻ってきました”なんて言えるはずもない。
 ……よし! とりあえず急いで戻ってみんなと意見交換だ!
 そうと決まればそれこそ急ごう! みんなが肉まん頬張って待っている!

「あっ! おっ兄っさまぁ~~っ
「はう!?」

 と、走り出した途端に声をかけられるタイミングの悪い俺。
 何処から!? と見渡してみれば、武舞台ではなく別のほうから軽い足取りで駆けてくる蒲公英が。

「蒲公英か。どうかした? 俺に何か用があったり───」
「えへへぇ、用はなかったけど見かけたから。お兄様は? 片腕なのに懲りずに手伝い探してるとか?」
「懲りずにとか言わない。……懲りてないけど。武舞台でちょっと確認したいことがあったから来ただけで、実はまだ視察中なんだ」
「そうなんだ……あ、ねぇお兄様? 一回、一回でいいから歌を歌ってくれないかなぁ。ここのところ準備とか鍛錬とかで疲れちゃっててさー」
「いや、俺急いでて……」
「だめ……?」
「いや……」
「お兄様ぁ……」
「………」

 上目遣いに懇願される。
 ぬ、ぬう、なんだというのだこの断り辛さ……!
 やっぱり急いでるからと言って駆け出せばいいだろうに、そうすると彼女の準備などへの頑張りを否定することになりそうな、このもやもやとした感情……!

「うぅ……じゃあ、どんな歌でもいいのか?」
「いいのっ!? やった!」
「待て待てっ、どんな歌でも! これが条件!」
「いいよいいよっ! 聞かせて聞かせて~っ?」

 悲しそうな顔が一気に元気一杯になった。
 ……神様。やっぱり女の子って怖いです。

「では───すぅ……はぁ……!」

 しかし歌う。
 短く、しかし実際に天にはある長さの歌を、そのまま歌うのではなく改良を加えて。
 15秒もあればきっと歌い終えるであろうそれを、今───!

  タイトル【長州力】
  作詞:エ○テー&北郷一刀
  曲調:エ○テー
  歌 :北郷一刀

「長州力~、みんな大好き~ 長州力~、僕も好き~ スコォ~ピオォ~~ン~~デスロォックゥ~~ゥウ~~~ッ 長ぉお~~~ゥ州ぅうう~~~ゥりっきぃい~~~っ

 …………。

「じゃっ!《ズビシッ! がしぃっ!》放せぇえーーーーーっ!!」

 ちゃんと歌ったのに、ズビシと構えた腕が掴まれた!
 何故? どうして!? ……考えてみたら何故もくそもない気がしてくるから不思議だ。

「歌ったろ!? ちゃんと歌ったじゃないか!」
「え~~っ? あんなの歌じゃないよ~~っ!」
「歌だよちゃんと! 消○力の少年に謝れ! ……あ、いや、この場合謝るの俺か!? とにかく人を待たせてるからこれ以上はダメだって!」
「待たせてるって、誰を? 」
「月に詠に華雄に霞に、恋にねねだっ! 待たせるといろいろまずいって解るだろ!?」
「うぅっ……でも一曲、元気の出る歌を歌ってくれるだけでいいからさぁ、ね? お兄様ぁあ~~~っ」
「……長州力~、みんな大」
「それはもういいから!」
「なんで!?」

 少し巻き舌風に歌ってみれば、途端に却下された。
 少ない時間で歌えるものを即興で作ってみればこれである。

「あー……蒲公英はこれから仕事の続きか?」
「え? あ、もう交代の時間が来たから、ご飯食べて次の仕事に移るってくらいかな。まだ余裕があるから、お兄様が歌ってくれたらな~とか思ってたら丁度見つけたから」

 にひひ~と笑う少女は、どうあっても俺を逃がすつもりはなさそうでした。
 ならばもう面倒だとばかりに頷き、掴まれた腕をそのままに歩き出す。

「あ、あれ? お兄様?」
「メシ、一緒に食おう。歌は歩きながらだ」
「あ、そっか。そうすればどっちも時間に余裕が出来るね」
「そゆこと。というわけで───長州力~ み」
「それはもういいってば!」
「そ、そうですか」

 いや……どうせ15秒程度で終わるんだから、最後まで歌わせてくれてもいいだろ……?
 とまあそんなわけで、祭り前日の騒ぎの中を歩き、歌いながら街を目指した。




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ネタ曝しです。

 *カッパーフィールド
 デビッド=カッパーフィールド。マジシャン。
 それってどんなカッパーフィールド?=それはどんなマジックですか?の略。
 全然略してないけど、まあ気にしない方向で。

 *今後トモ、ヨロシク
 女神転生シリーズより。仲魔にした悪魔が種類によって言う言葉。

 *頬を叩いてから片頬を殴って掌に人の字を書いて飲む
 天地無用!魎皇鬼より。
 零・魎呼がやっていた不思議なまじない。
 赤面が治まる効果があります。

 *通常の三倍
 ガンダムで有名なシャア専用の赤いあんちくしょう。
 正式倍率は通常のザクの1.3倍程度だという。

 *長州力
 ながすちから、ではない。ちょうしゅうりき。
 プロレスラーでスコーピオンデスロックが得意技。サソリ固めですね。
 プロレス好きです。昔のですが。

 *消臭力
 トイレとお部屋に消臭力。
 このCMの少年の歌唱力が羨ましいですね。



 さて、78、79話をお送りします。凍傷です。
 ようやっと掃除が終わりました。長かったです。
 確認も無事に終わり、少しは時間に余裕が出来そうです。
 予定では今回のUP分も19日に出来るはずだったのに、随分とまぁ……。
 しかしまあなんでしょう。
 べつに無理に分割する必要もないかなー?とか最近思っているのですが、100kbを越えると携帯電話では読み込み切れなかったりするんですよね。
 こういう場合はきちんと分割するべきかなとも思うのですが、やはり機種にもよるようです。

 さて、6月もそろそろ終わりです。
 最近暑くなってまいりました。
 水分補給は大事ですが、冷たい水ばかりを飲みすぎて体温を乱しすぎないよう、お気をつけください。

 では、また次回で。

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